善福寺日乗

ある職業的散歩者の日記

共同幻想としての日本型雇用システム(1)

 1月23日付けの朝日新聞朝刊が、神津連合会長の記者会見における発言を報じています。主要部分を紹介します。
『今春闘について「すべての働く者のための春闘としたい」と語り、大企業と中小企業、正社員と非正規社員の賃金格差の是正に力を入れる考えを示した。経団連春闘の論点の一つに「年功型賃金」などの日本型雇用システムの見直しを挙げているが、神津氏は「日本的な雇用の良い部分が毀損されてきたことが(格差が広がった)今日を招いている」と批判した』
 鉄面皮の戯言というしかありません。連合は大企業や公共セクターの正規雇用労働者を中心に組織された組織です。下請けの中小企業や非正規労働者景気変動に対する調整弁とすることにより終身雇用と年功序列型賃金を守ろうとしてきた大企業の企業内労働組合、あるいは非正規公務員や指定管理者を含む民間委託先の労働者などのいわゆる官製ワーキングプアの犠牲の上に、終身雇用と年功序列型賃金を維持してきた産別労組の連合体なのです。
 終身雇用、年功序列型賃金そして企業内労働組合が三位一体となった日本型モデルが、奇跡ともいわれた高度成長の原動力として賞賛された時代がありました。しかし、今それが社会全体の桎梏となっています。そもそも日本型モデルは、1960年代から70年代にかけての特異な条件下にしか成立し得ないものだったにもかかわらず、あたかも永続性のあるモデルであるかのような幻想を抱いたことが、今日の貧困や停滞、そして政治状況を生み出しているのではないか。そんな問題意識からこの文章を書いています。
 “「西洋」の終わり - 世界の繁栄を取り戻すために”などの著書で知られる英エコノミスト誌の元編集長でジャーナリストのビル・エモットは、2016年1月12日に配信されたロイター日本語版の記事で、次のように指摘しています。全文を紹介します。
『<労働力不足の今なら改革の痛みは小さい>
日本の経済発展と社会調和にとって、最大の障害は、労働市場の深刻な分断だ。日本の賃金労働者は約60%のインサイダー(正規雇用労働者)と約40%のアウトサイダー(非正規雇用労働者、多くはパートタイマー)に二極化している。
前者が、高いレベルの雇用保障と福利厚生など賃金・給与以外の経済的利益(ベネフィット)を享受している一方、後者の大多数は低賃金で、そうしたベネフィットも皆無に等しく、不安定な雇用を余儀なくされているのが実情だ。日本は迅速に労働法制を調整し、フルタイム、パートタイムに関係なく、働くすべての人が同等の雇用保障とベネフィットを受けられるようにする必要がある。むろん、これは、インサイダーにとっては雇用保障のレベルが下がることを意味する。したがって、失業者に対する保障制度の改善や再就職への公的支援の拡充が必要になる。ただ同時に、アウトサイダーの権利と雇用保障のレベルを引き上げる必要がある。大企業は当然、こうした変化を阻もうと政治に強く働きかけると思われるが、アウトサイダーの権利を向上させることは、インサイダーの権利を引き下げるのと同じくらい重要だ。労働市場の分断を解決しなければ、日本は家計需要の慢性的な低迷、生産性上昇の停滞に悩まされ続けるだろう。そして、増加し続けるアウトサイダーの人的資本は着実に蝕(むしば)まれていく。技能習得にもっと投資しようというインセンティブが、会社側にも個人(非正規雇用労働者)側にも、働きにくいからである。日本経済が完全雇用状態にあり、現実として労働力不足に直面しているにもかかわらず、この人的資本の劣化と家計需要の低迷が継続しているということは、労働制度改革の喫緊の必要性について十分な根拠を示している。完全雇用と労働力不足の状況下では本来、このような改革に伴う社会的な痛みは小さく済むとも言える』
 この4月から『パートタイム・有期雇用労働法』が施行されました。これが成立した背景には、経営サイドの思惑はさておき、上記のような問題意識がありました。いわゆる働き方改革が進めば、そう遠くない将来、解雇権濫用の法理も見直されることになるでしょうが、それは避けて通ることのできない変化なのだと捉える必要がある。そう考えています。

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 写真はリーマンショックが起こる3か月前の2008年6月、葛飾東四つ木にある木根川商店街で撮ったものです。玩具が輸出産業の花形だった戦後復興期から高度成長前期にかけて、この街には玩具を作る町工場が軒を連ねていました。玩具産業を支配していたのは蔵前や浅草橋にある玩具問屋でしたから”濡れ手に粟”とまではいかなかったものの、街は活気に溢れていたと言います。今にして思えば、希望に満ちた時代でした。